うつ病・抗うつ薬の体験談を500件以上公開しています

うつ病と公的支援

うつ病は、厚生労働省の調査で100万人以上の患者がいるとされ、年々増加している精神疾患です。もし世帯主がうつ病にかかってしまったら、家計を維持しながらどうやって治療を続けていけばよいのでしょうか?

万一、うつ病を発症したときのため、公的な支援制度について知っておきましょう。

公的支援制度

公的支援(こうてきしえん)とは政治学用語の一つ。 国や地方自治体などといった公的機関が、民間企業や個人に対して支援をするということ。ここでいわれている支援というのは財源を投入することによる経済的支援が多くの場合であるが、雇用や経営や育児や介護などといった事柄に対して助言を行ったり人的支援を行うということも公的支援に含まれます。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』一部抜粋

うつ病の方に関係する公的支援には、「傷病手当金」「自立支援医療制度」「精神障害者保健福祉手帳」があります。3つの制度を申請すれば、うつ病で働けない間の生活費や治療費などを受け取れます。

傷病手当金

傷病手当金とは、病気やケガで働けない人の生活を保証するために、全国健康保険協会(協会けんぽ)が提供している制度です。傷病手当金を利用すれば、休業前までもらっていた給料の3分の2を最大1年6か月間受け取れます。たとえば、休業前の平均月収が30万円の人は1日あたり約6,000円受け取れるため、傷病手当金を利用すれば、1年6か月の間で約327万円の生活費が支給されます。

 

(1)傷病手当金を利用する条件

傷病手当金を利用するには、下記の条件を満たしていなければなりません。

・会社の健康保険に加入していること

・うつ病により連続で4日以上の休みが必要であること

・会社を休んでいる間に収入がないこと

 

すべての条件に適っていなければ、うつ病が原因で働けなくても傷病手当金を利用できません。うつ病が原因で働けない人は、条件に適っていることを確認したうえで、傷病手当金を申請しましょう。

 

(2)傷病手当金の申請手続きについて

・会社の人事部に傷病手当金を申請する旨を伝える

・傷病手当金支給申請書を受け取る

・申請書に自分の名前や休業の理由などを記入する

・かかりつけの医者から病名などの診療内容を申請書に記入してもらう

・申請書を会社の人事部に提出する

 

傷病手当金を申請するには、会社の人事部に申請する旨を伝えたうえで、傷病手当金支給申請書を発行してもらわなければなりません。申請書を受け取った後に、必要事項を記入したうえで会社の人事部に提出すれば、傷病手当金の申請が完了します。ただし、傷病手当金には審査があることから、うつ病の人が国から補助を受けられるまでは、申請が完了してから約1か月かかります。

申請が遅れれば遅れるほど補助を受けるまでの期間が長引くため、うつ病が原因で働けない人は、できるだけ早く会社の人事部に傷病手当金を申請する旨を伝えましょう。

自立支援医療制度

自立支援医療(精神通院医療)は精神疾患で通院による継続的な治療を受ける方の負担を軽減するしくみです。医療機関で治療を受けた場合には健康保険などの医療保険が適用され、自己負担は通常3割です。治療費が1万円であれば患者本人は医療機関の窓口で3,000円支払うことになります。自立支援医療での自己負担は1割で済みますので、治療費が1万円であれば、患者本人の負担は1,000円で済みます。経済的負担が軽減されます。なお、入院については対象外です。

(1)対象者

何らかの精神疾患により、通院より治療を継続することが必要な方が対象です。統合失調症、うつ病・躁うつ病などの気分障害、不安障害、薬物などの精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、強迫性人格障害など「精神病質」、てんかん、認知症など、対象となるのは全ての精神疾患です。

 

(2)軽減を受けるには

自己負担の軽減を受けるには、各都道府県知事や政令市長から指定を受けた「自立支援医療機関」に通院することが必要です。

さらに、指定を受けていればどこでも良いわけではなく、「自立支援医療受給者証」に記載された医療機関や薬局に限られますので注意してください。なお、医療機関や薬局は「自立支援医療受受給者証」を申請するときに、申請書に記載します。

 

(3)医療範囲

外来での診察や投薬・処置、薬の処方、デイケア、訪問看護等が対象です。入院医療の費用、公的医療保険が対象とならない治療・投薬などの費用(例:病院や診療所以外でのカウンセリング)、精神疾患・精神障害と関係のない疾患の医療費などは対象になりませんので注意しましょう。

 

(4)上限額

1か月当たりの負担には、世帯の所得に応じた上限が設けられています。世帯は住民票の世帯とは異なり、違う医療保険に加入している場合は別世帯になります。

例えば、精神通院医療を受けている本人が健康保険加入者で、同居の両親が国民健康保険の場合、本人だけの所得で上限額が判定されます。ただし、上限が設定されるのは、区市町村民税が235,000円未満の場合で、自己負担額の上限は0円~1万円となっています。

区市町村民税が235,000円以上の場合は、原則として、本制度の対象外ですので留意しましょう。ただし、高額治療継続者(「重大かつ継続」)に該当する場合は、例外的に対象となり、区市町村民税が235,000円以上でも2万円の上限が設定されています(平成33年3月31日までの経過措置)。なお、精神通院のほとんどは「重大かつ継続」に該当します。

「自立支援医療」に加え、東京都の場合は、区市町村民税世帯に対して医療費助成制度がありますので、自己負担が0円となります。

 

(5)申し込み方法

お住いの区市町村の担当窓口(障害福祉課、保健福祉課など)に申請します。自立支援医療費(精神通院)支給認定申請書、自立支援医療診断書(精神通院)、医療保険の加入関係を示す資料、「世帯」の所得状況等が確認できる書類などを提出します。

認定されると、申請から2~3か月後に「自立支援医療受給者証(精神通院)」が本人に交付されます。さらに、自己負担月額が設定されている方には「自己負担上限管理表」が交付されます。申請手続後、受給者証の交付を受けるまでの医療費に関しては、申請書の控え等を持参して、各医療機関等にご相談ください。

認定を受けた場合、受給者証の効力が生じるのは申請した時です。有効期限は申請受付日から1年間です。引き続き精神通院医療を受けるには更新手続きが必要です。

軽減を受けるためには、自立支援医療受給者証に記載された医療機関や薬局にこの受領証と自己負担上限額管理表を提示する必要があります。

精神障害者保健福祉手帳

精神障害者手帳(精神障害者福祉手帳)は、精神障がいのため、長期にわたり日常生活や社会生活への制約がある人を対象とした手帳です。

(1)対象者

統合失調症や、うつ病・そううつ病などの気分障がい、てんかん、薬物やアルコールによる中毒精神病、高次脳機能障害、発達障がい(自閉症、学習障がい、注意欠陥多動性障がい等)などです。精神障害者手帳は障がい状況によって1~3級まで等級が分かれます。

 

(2)障害者雇用での就職・転職活動ができる

障害者雇用促進法に基づき、45.5人以上の従業員数を雇っている一般事業主は、従業員数の2.2%以上、障害者の労働者を雇用しなければなりません。この雇用率を達成していなければ、事業主は国に一定のお金(障害者雇用納付金)を納付しなければいけませんし、雇用率を達成し、かつそれ以上の雇用数であれば国からお金(障害者雇用調整金)が支給されます。

こうした法律もあって、企業は障害者雇用を進めています。実は、この雇用率に算定されるのは、障害者手帳を持っている人のみ。ですから、障害者手帳を持っていると、就職を目指すとき、一般採用だけでなく、障害者雇用での募集にも応募できますから、選択肢が広がります。

精神障がいがあると、継続的に仕事を続けることが困難だったり、就職そのものが難しい場合もあります。障害者雇用として就職した場合、自分の能力と適正に応じた仕事に就ける、通院や治療に配慮してもらえる、周囲の理解が得やすい、など無理なく仕事を続けられます。精神的な安定が得られるメリットもあります。

 

(3)等級によって所得税・住民税・自動車税などが軽減される

納税者か、控除対象配偶者や扶養親族が精神障害者保健福祉手帳を交付されていると、所得金額から等級に応じて一定の金額の控除を受けることができ、所得税や住民税が軽減されます。また等級が1級の方と同居している場合、配偶者控除・扶養控除に加算があります。控除については障害者手帳の等級によって金額が変わってくるので要チェックです。手続きは年末調整か確定申告で行います。ほかにも相続税や贈与税でもさまざまな特例が受けられます。

障がい者が所有する自動車の、自動車取得税・自動車税・軽自動車税の減免を受けることもできます。減免内容や、対象となる障がいや等級は、自治体によって異なりますが、等級1級のみを対象とすることが多いようです。

 

(4)さまざまな公共料金の割引サービスが受けられる

鉄道やバスなど、公共交通機関の割引サービスは身体障がい者や知的障がい者に限られるケースが多かったのですが、精神障がい者も運賃割引の対象とする交通事業者が増えてきています。東京2020に向けて、大手航空会社も精神障がい者を割引の対象とする考えを明かしています。この際に、よく利用する交通機関のサービス内容を確認してみてはいかがでしょうか (なお、残念ながらJRは現時点で精神障害者保健福祉手帳による割引制度はありません) 。自治体によっては、タクシー利用券の交付やガソリン代の助成をするところもあります。

NHKの放送受信料は、障がいや世帯の状況によりますが、半額割引と全額割引があります。

携帯電話会社の料金割引サービスも見逃せません。NTTドコモのハーティ割引、auのスマイルハート割引、ソフトバンクのハートフレンド割引、各社で内容が異なりますが、基本料金の割引など大きなメリットがあります。ほかにも、美術館や博物館、動物園など、公共施設の多くで手帳を提示すると入場料割引が受けられます。

 

(5)等級(1級・2級・3級)

精神障害保健福祉手帳の等級は次のように1~3級まであります。精神疾患の状態とそれに伴う能力障がいの状態の両面から総合的に判断されます。

・1級…精神障害であって日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの

・2級…精神障害であって日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの

・3級…精神障害であって日常生活もしくは社会生活が制限を受けるか,又は日常生活もしくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの

 

(6)申請方法・必要書類

どの障害者手帳もそうですが、申請したからといって、必ず交付されるものではありません。まずは自分の障がいが精神障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の交付対象にあたるかどうかを調べましょう。また、手帳の交付条件はその精神疾患の初診から6ヶ月以上経過していることです。自分の初診日を確認してください。次に書類を揃えます。提出先や相談先は、住んでいる市区町村の障害福祉担当窓口(福祉事務所や福祉担当課)です。

 

・申請に必要な4つのもの

1.申請書

2.診断書(精神障害者保健福祉手帳用)または障害年金証書の写しなど

3.顔写真(タテ4センチ×横3センチの場合が多い)

4.マイナンバーがわかるもの(個人番号カードか、通知カード+運転免許証やパスポートなどの身元確認書類)

これに加えて、代理人が申請する場合は、

5.代理権の確認書類(委任状や申請者本人の健康保険証など)

6.代理人の身元確認書類(個人番号カードや運転免許証)

などが必要になることがあります。詳細は住んでいる市区町村に確認をしてください。

 

取得の流れは以下の通りです。

1.障害福祉担当窓口で「診断書(精神障害者保健福祉手帳用)」の用紙を入手する

2.精神疾患の診察をしている主治医・専門医に「診断書」を記入してもらう。

3.市区町村の障害福祉担当窓口に、「申請書」、「診断書」、写真を提出し申請。マイナンバーも必要になります。

4.審査され、障がい等級が決定します。

5.およそ1ヶ月~4ヶ月で手帳を受け取れます。


(7)デメリット

医師への診断料がかかること、二年に一度の更新が負担といったこともありますが、「手帳を持つ」こと自体に抵抗を感じる方もいらっしゃるようです。申請・更新時の物理的負担や手帳を保有することでの心理的負担があると思われる方は無理にとる必要はありません。自分にとって必要だと感じるサービスがあれば、取得を考えればよいのです。

実は、手帳を持たなくても受けられる福祉サービスもあります。たとえば、障害年金や、自立支援医療(精神通院)の申請は手帳がなくても可能です。一方、都道府県、市町村などの自治体には「心身障害者医療費助成制度」などの名称で、心身に重度の障がいがある方が保険証を使って病院で受診したときの自己負担金の助成が受けられる制度があります。

この制度は、自治体によって内容が大きく異なるのですが、精神障がい者も助成対象としている自治体の場合、精神障害者保健福祉手帳なしで申請できるところもあれば、手帳の所持者を対象とするところもあるので、要注意です。お住まいの自治体の条件を調べておくとよいでしょう。

 

(8)更新方法

先で述べた通り、精神障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)は、有効期間が2年間と限られています。そのため、続けて手帳を必要とする人は、更新申請を忘れないようにしなければいけません。主治医の診断書も再度必要となります。有効期限の3ヶ月前から申請ができますから、診断書の手配含め、早めに準備をしておきましょう。

 

■申請に必要なもの

現在お持ちの手帳の写し

交付申請の時と同じ書類

本人の写真

印かん

 

有効期限内においても、精神障がいの状態の変化等により、手帳に記載された障がい等級以外の等級に該当すると思われる時は障がい等級の変更申請を行うことができます。障がい等級の変更が認められた場合、有効期間は、変更決定の日から2年間(2年後の月末まで)となります。その際には上記の必要書類と現在交付されている手帳の写しが必要です。

マイナンバーが付与されたことにより、平成28年度から手帳の申請時にマイナンバーに加え下記が必要となりました。

 

■通知カード提示の際に必要な本人確認書類

運転免許証、旅券、精神障害者保健福祉手帳、身体障害者手帳、療育手帳、在留カードまたは特別永住者証明書等の本人確認の書類

 

■上記書類がない場合は以下のうち2点以上の書類を提示

国民健康保険・健康保険・船員保険・後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証、健康保険日雇特例被保険者手帳、国家公務員共済組合若しくは地方公務員共済組合の組合員証、私立学校教職員共済制度の加入者証、国民年金手帳、児童扶養手当証書又は特別児童扶養手当証書等

 

6.まとめ

精神障がいがあることで、日常生活や社会生活に制約があったり、経済的・精神的な負担を感じている方は、サービスやサポートを受けることを考えてみてはいかがでしょうか。