うつ病とは
うつ病は、一言で説明するのはたいへん難しい病気ですが、脳のエネルギーが欠乏した状態であり、それによって憂うつな気分やさまざまな意欲(食欲、睡眠欲、性欲など)の低下といった心理的症状が続くだけでなく、さまざまな身体的な自覚症状を伴うことも珍しくありません。つまり、エネルギーの欠乏により、脳というシステム全体のトラブルが生じてしまっている状態と考えることもできます。
私たちには自然治癒力という素晴らしい機能が備わっていて、通常はさまざまな不具合を回復へ導いてくれます。私たちは日常生活の中で、時折憂うつな気分を味わいます。不快な出来事によって食欲が落ちることもあります。しかし、脳のエネルギーが欠乏していなければ、自然治癒力によって、時間の経過とともに元気になるのが通常です。時間の経過とともに改善しない、あるいは悪化する場合には生活への支障が大きくなり、「病気」としてとらえることになります。そのため、仕事・家事・勉強など本来の社会的機能がうまく働かなくなり、また人との交際や趣味など日常生活全般にも支障を来すようになります。
うつ病の種類と特徴
うつ病を分類する場合に、①症状の現れ方による分類、②重症度による分類、③初発か再発かによる分類、④特徴的な病型による分類など、さまざまな分類の仕方があります。以下に簡潔に説明します。
(1)症状の現れ方による分類
うつ病の中で、うつ状態だけが起こるものを「単極性うつ病」、うつ状態と躁状態の両方が起こるものを「双極性うつ病」と呼びます。双極性うつ病においては,躁状態の興奮が高ければ高いほど,次に現れるうつ病の期間が長いとされています.
(2)重症度による分類
症状による仕事や日常生活に現れる支障の程度による分類です。「軽症」は、仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションに生じる障害はわずかで、周囲の人はあまり気がつかないことも多いレベルです。一方「重症」は、仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションが明らかに困難なレベルです。「中等症」は、「軽症」と「重症」の間に位置します。
(3)初発か再発かによる分類
「単一性」か「反復性」かという分類です。「反復性」の場合は、特に再発防止に対する対応が重要になってきます。
(4)特徴的な病型
「メランコリー型」、「非定型」、「季節型」、「産後」などがあります。
・メランコリー型:典型的なうつ病と言われることの多いタイプです。さまざまな仕事や責務、役割に過剰に適応しているうちに脳のエネルギーが枯渇してしまうような経過をたどるものを指しています。特徴としては、良いことがあっても一切気分が晴れない、明らかな食欲不振や体重減少、気分の落ち込みは決まって朝がいちばん悪い、早朝(通常の2時間以上前)に目が覚める、過度な罪悪感、などがあります。
・非定型:特徴としては、良いことに対しては気分がよくなる、食欲は過食傾向で体重増加、過眠、ひどい倦怠感、他人からの批判に過敏などがあります。
・季節型:は「反復性」の一種で、特定の季節にうつ病を発症し季節の移り変わりとともに回復がみられます。どの季節でも起こりうるのですが、冬季うつ病が有名で日照時間との関係が言われています。
・産後うつ病:産後4週以内にうつ病を発症するものです。ホルモンの変化、分娩の疲労、子育てに対する不安、授乳などによる睡眠不足など、不健康要因が重なることが影響していると考えられています。
うつ病の原因
さまざまな研究によって分かっていることは、「うつ病を引き起こす原因はひとつではない」ということです。非常につらい出来事が発症のきっかけになることが多いのですが、それ以前にいくつかのことが重なっていることも珍しくありません。そのため原因というより、要因というほうが考え方としてなじみやすいでしょう。生活の中で起こるさまざまな要因が複雑に結びついて発症してしまうのです。
まず最もきっかけとなりやすい「環境要因」ですが、大切な人(家族や親しい人)の死や離別、大切なものを失う(仕事や財産、健康なども含む)、人間関係のトラブル、家庭内のトラブル、職場や家庭での役割の変化(昇格、降格、結婚、妊娠など)などが要因となります。こうして見るだけでもさまざまな出来事が要因となりうることが分かります。
また「性格傾向」も発症要因のひとつです。前記の「うつ病とは」で説明したように、脳のエネルギーが欠乏した状態をうつ病と考えますと、義務感が強く、仕事熱心、完璧主義、几帳面、凝り性、常に他人への配慮を重視し関係を保とうとする性格の持ち主は、エネルギーの放出も多いということになります。努力の成果が伴っているうちはエネルギーの回復もみられますが、成果が出せない状況が生じたり、エネルギーの枯渇が起これば発症の危険が高まります。
その他「遺伝的要因」、「慢性的な身体疾患」も発症要因のひとつです。 これらの要因によってうつ病を発症している時、脳の中はどうなっているでしょうか。最近の研究では、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという考え方で一致してきています。脳の中では神経細胞から神経細胞へさまざまな情報が伝達されます。その伝達を担うのが「神経伝達物質」というものです。なかでも「セロトニン」や「ノルアドレナリン」といわれるものは、人の感情に関する情報を伝達する物質であることが分かってきました。前述のさまざまな要因によって、これらの物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなり、うつ病の状態が起きていると考えられています。
うつ病と診断される可能性はどのようなときか(1)抑うつ状態がある「憂うつである」「気分が落ち込んでいる」「悲しい」「希望がない」などの抑うつ気分が続き、思考や意欲といった精神機能が低下している状態をいいます。(2)身体的な症状が[…]