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うつ病の体験談【われた20年】

それは気づかないうちに忍び寄ってきて、知らないうちに深く深く入り込んでいました。

私はどちらかといえば「変わり者」「我が道を行く」タイプですが、深く理解し合える親友も何人か持っており、特にこれといった生活、仕事上の不都合も感ずることなく生きてきた、と思っていました。

ところがいつの日からか、朝起きるのがだんだん辛くなり、何もかもが億劫に感じるようになりました。そしてそれは年を追うごとにだんだんひどくなっていきました。

絶対にやらなければいけないこと、絶対に行かなければならないところ、絶対に電話しなければならない人、それらすべてが異常なほどに億劫、いやもう「恐怖心」に近いものを感じるようになりました。

そのうち、高いお金を払ってチケットを買ったコンサートや、楽しみにしていたはずのプロ野球や大相撲にも、当日になると行く気が失せ、外に出ることがとてつもなく億劫に、いや、恐怖に感じるようになりました。

布団から出ることは現実の世界に直面すること、それがとてつもない恐怖でした。

人に会いたくない、外に出たくない、何もしたくない、それでいて、そんな「怠け者」な自分に自己嫌悪を感じ、自殺を考えるも実行する勇気がなく、一日中布団の中で悶々とする日々が続きました。

でも私の中で「うつ病」という言葉は一切意識されませんでした。

「うつ病は真面目で完璧主義の人がかかるもの。自分はいつも布団の中でダラダラしている怠け者なのだから、うつ病になんかかかるわけがない」と思っていました。そして、「精神を病む」ことは恥ずかしいことだとも思っていました。

こうして無理やり自分を鼓舞して苦しみながら生きてきましたが、ついに限界がきました。

「自分の全てを消したい」という強い気持ちに駆られ、自殺するかわりに、友達も仕事も過去も全てを捨てて、単身でイタリアに移住しました。

ここでは全てが別世界。みんな自分の恥ずかしい過去は知らない。

イタリア人は親しみやすくて話し上手で、日本人といるときのような息苦しさは感じない。

布団から出ることは相変わらず恐怖だし、朝起きられない日もあるけれど、なによりも「自分の過去が無い」ところで暮らすことは本当に楽でした。

そして、日本にいたころには使ったことがなかったコンピューターを買い、家族や数少なくなっていた日本の親友とメールをやり取りするためにインターネットを始めました。

そこで私は色々な情報を得ることになり、「自分はもしかしたらうつ病なのではないか」と疑うようになりました。

専門のサイトで見るうつ病の症状は私のそれとあまりにも合致しているし、うつ病体験者の話や、ネットでできる「うつ病自己診断チェック」などを通し、自分がうつ病であることを100%確信しました。

すると何だか今までよりもずっと気が楽になりました。

「怠け者」だったのではなく、病気なのだと思えば自己否定もしなくなるし、うつ病である自分を受け入れ、自分の心の声を聴くようにし、自分を「甘やかす」ことで気持ちを楽にすることができるようになりました。

ここまでくるのに20年。私はもう56歳になってしまいました。

もっと早くに気づき、専門家の治療を受けていればこんなに苦しむこともなかったのかもしれない、20年も無駄に生きてしまった、と思うこともありますが、今は「無理なく自分のペースで、じっくりと失った20年を取り戻していこう」と思うことにしています