私は出版社の編集をしていました。ファッション誌に部類される雑誌で、女性モデルと仕事をしておりました。
これは雑誌の中でも1、2を争う人気を誇ったモデルがうつ病になった話です。
その方(以後Aさん)は雑誌のモデルの中でもかなり人気でしたし、編集者からもカメラマンからもスタッフからの人気もかなりありました。
撮影場所に入れば、スタッフ一人一人に「今日はよろしくお願いします!」と声をかけ、終わりには「ありがとうございました。お疲れ様です!」と一人一人に声をかけていくような人でした。
撮影前はふんわりした雰囲気なのに、撮影が始まると人が変わったようにオーラが出る。
私はこんなすごい業界に入ったのだと感動したのを覚えています。
ある秋の撮影の時、Aさんがスキニーを穿きました。
スキニーパンツといえばピッチリとしたパンツで着る人を選ぶパンツですが、Aさんが穿くと逆にスカスカでこんなに細かったのかと感じました。
自分がそれに気付いてから日を追うごとにAさんは痩せ細っていきました。
雑誌のアンケートでも「Aさん最近痩せすぎではないですか?」「Aちゃんが心配です」などの声が多く寄せられるようになりました。
そんな折、編集長から「Aさんがしばらくうつ病でお休みします。うつ病により拒食症気味になり食べようとはしているけど痩せていく一方で、このまま放っておくと最悪死に至る可能性もあると診断されました」と、
その時は編集部員も休めば治る、ゆっくり休んで早く復帰して欲しいなと話し合っていました。
約1年ほど休んだ後、復帰をすると編集長の口から発表されました。
Aさんは復帰する前に、編集部員一人一人にメッセージで「大変ご迷惑をおかけしました。今まで以上に頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします」と連絡をくれました。
内心こんなに責任を負わず気軽にしていてくれていいのにと感じていました。
けれども自分の一言で何か責任を負ってしまっては困ると感じ言えませんでした。
復帰後はじめて一緒になった撮影では、以前よりコミュニケーションは取らなくなったけど、体型は戻っていたし、むしろふっくらしたので良かったなと感じました。
ですが、復帰してからもどんどん痩せていき、Aさんは再びお休みをすることになりました。
人に見られると言う職業はそれほどまでにしんどく、自分がその立場になることは絶対にないので、Aさんの気持ちを想像することはできても理解してあげることができないのをしんどく感じていました。
時には、編集部に「Aさん痩せすぎ」と一言だけ残し切るという心ない電話がくることもありました。
人に見られる職業の厳しさを再度認識いたしました。
その後しばらくして編集長の口からAさんが引退することが発表されました。
うすうすスタッフ共々感じていましたが、仕方のない事だとみんな理解しておりました。
編集長から「もともとうつ病、拒食症になった原因は…、それが本当の理由かわからないんだけど、スタッフの誰かがAさんに『少し太った?』と聞いたのが原因かもしれない」と言われました。
その時、自分が忘れているだけでもしかしたら言ったかもしれないということと、多分誰もそんな気持ちで言ったわけではないのに、軽い一言で人によってはずっと重くのしかかる枷になることもあるのだなと知りました。
この経験から感じた事は、普段のどんな付き合いでも言葉を選んで生きていきたいということと、うつ病に対する理解はあっても知識が足りないのだなということでした。
今でも自分に何かしてあげれたことがあったかもしれないと感じています。
元気に過ごしていることを願っています。