最初にうつとはっきり診断されたのは23歳のころでした。高校生の頃から軽度のうつの症状があらわれており、朝学校へ行くとなると体が重くてまったく動けなくなっていました。
就職先でのトラブルがきっかけで食事や入浴、睡眠も困難になっていたため病院を受診したのです。
受診したといっても自分の考えではありません。家族の勧めでした。そもそもうつ状態のときにそんな判断力はありません。あったのは希死欲求と自罰願望、閉塞感で、右と左どちらがいいかという簡単な選択さえできていなかったのです。
病院ではデパスとルボックスが処方されました。量が多いと副作用がつらいし自分ではまったく効いていないような気がしましたが、家族は「薬を飲むと調子がよさそうだ」といっていました。だから、きっとこれでも調子が良いのだろうと思って薬を飲み続けることにしました。
薬を飲んでも仕事で外に出るとき以外、日常生活はおくれていませんでした。何も考えられないので何をするかを決めることができない。ベッドで寝ているのもしんどくて、ましてやそこから腕の一本を動かすこともできませんでした。
息を吸って胸を膨らまし、気道から息を吐く。
これだけの作業にも負荷を感じ、呼吸を放棄したいと考える毎日でした。
幸い私には面倒を見てくれる家族がいました。ですが、家族に頼りきりになると彼らが不在の時にまたきつくなります。深夜、急に全身の力が抜け呼吸がつらくなり、助けて!とひぃひぃ過呼吸になりながら一人で叫びました。
発作的に自分の首を絞め泡を吹いて叫んでいたところを救助されたこともあります。外出すれば人間という情報過多に精神が削られ、急遽カフェへ逃げ込むこともありました。それでも大きな問題にならなかったのは、一日の大半をベッドのうえで過ごさざるをえなかったからでしょう。
抑うつには日光を浴びろ、筋トレをしろ、肉を食べろという話を聞きますが、ネットに出回っているうつ対策は、私には何の効果もありませんでした。日光を浴びる以前に外出ができません。ベッドから降りて、服を選んで着替えて、髪をとかして、必要なものをもって家を出る。わたしにとって、こんな重労働はありません。
さらに、外出先で人間を見かけたり音や光を浴びるだけでどんどん疲労していきます。日光を浴びて気持ちいいと感じたのは、寛解期を経た現在になってからです。筋トレをしろというのは、ベッドから降りようとしたときに筋肉を使わな過ぎて力が入らずに崩れおちたことのある身では三日坊主という結果に終わりました。
こちらも、寛解期に4カ月ほど実行したところ多少活動的にはなりました。他にも風呂に入る、誰かと話すなどに関して効果はあっても、そこに至るまでのプロセスと障害によって、うつ状態の人は疲れて動けなくなります。実行できても、疲れすぎてその後三日~一週間は動けなくなりました。
では何ができるのかと言われれば、何もできませんでした。
じっと静かに待ち、時間がたち疲れが回復するのを待つしかありませんでした。
しかし何もしない、そのこと自体が苦痛です。
自分はこのまま何年も過ごすのか、こうやって無駄に時間を過ごして無為に生きるのか、その間に普通に生きている人はどんどん先へ行くのか自分は取り残されるのかと先行きのなさに絶望し焦るばかりです。だからこそできることに挑戦し、動けなくなり、さらに絶望するという循環を繰り返していたのです。
カウンセリングは、そんな失敗で動けなくなる自分にとっての数少ない効果的な対策でした。カウンセラーにも良し悪しはあるので、私は運がよかったのでしょう。カウンセラーの方は客観的に自分を見て記録し、対策案を提示してくれます。
外出訓練と自己の問題の解決を同時に図ることもできるので、気分転換にもなります。まともに会話できなくても、顔が見れなくても問題はありませんでした。対話の中でアダルトチルドレンや過去の学校生活においての心の問題が発見され、古傷が開かれることもありました。そうやって、何年もかけてやっと日常生活が送れるほどにまで回復しました。
しかし、うつ期間の間に失われた体力や時間は戻りません。調子が悪いときはうつに似た症状が現れますし、希死願望も残っています。うつは心の風邪ともいいますが、風邪のように簡単に治りはしません。飲めば治る薬もありません。(症状が緩和する薬はあります)
大事なのは、辛くてもゆっくり休むこと、病院へ相談すること、できるなら周りの理解を得ることです。うつになったことがない方はどうか、疲れている人に優しくしたあげてください。うつの人は生きるだけでも死にたくなるほどにつらいです。そしていつ誰がうつになるかはわかりません。その時に適切な治療法がとれるよう、適切な知識と対応を知ってください。