これは、私が通信制高校に勤めていた時に在籍していた、女子生徒Yさんのお話です。
彼女は元々全日制高校に在籍しており、成績も優秀だったようです。ですが高校3年生になる時、周りとうまく関われず休学することになり、1年間の休学を経て私の勤めていた高校に転入してきました。
私が最初に持った印象は「おっとりしているけれどよく喋る子」でした。本来通信制の通学はスクーリングといって、決められた日数だけ通学すればよいのですが、生活リズムを整えたいという本人・保護者の希望があり、レポート授業として週5日学習センターに来ていました。
そのため、私は他の生徒よりも彼女とよく顔を合わすようになり、勉強に関すること以外でも話すようになっていきます。
彼女は、前の学校ではどうだったとか、これからはこうしたい等、うつ病で休学していたことなんて吹っ切れましたよと言わんばかりに、なんでも話してくれていました。
1ヶ月経った頃、徐々に遅刻が目立つようになり、欠席も増えるようになりました。理由は前日の夜更かしによる寝坊です。
通学してきた際は本人も反省しているようでしたので、「せっかくここまで回復したんだから、ここで誘惑に負けたら勿体ないよ!」等と励ましながらなんとか前期を乗り越え、夏休み期間に入りました。
夏休みが明けると欠席は更に増えて、学校に来てもまともに授業を受ける様子はなく、どうやら夏休み期間中にできた初彼氏のことで頭がいっぱいのようです。
話すことも彼氏のことばかりでしたが、それでも週に何日かは学校に来れている状態なので、ここで水を差すと逆効果になるのではと思い、時間の許す限り彼女の話を聞くことにしました。
ところが、ある日突然状況が変わりました。その日の朝、保護者の方からお電話で欠席の連絡がありました。もはや私にとってはいつものことです。
ですがその日は、午後に学校の電話が鳴り受話器を取ると、急に「先生助けて!!」と慌てた様子の彼女の声が聞こえてきました。
私も一瞬ビックリしてしまいましたが、冷静に「Yさんだね?落ち着いて、何があったの?」と尋ねました。彼女はパニックになっていて、うまく話せない様子です。
文章になっていない言葉を一つ一つ丁寧に聞き取ると、どうやら初彼氏との夜遊びを親に注意されたとのことでした。
そんなことでこんなにパニックになるかと思っていたら、電話口にお母様が出られて「すみません。こちらで解決しますので。」と言われ、電話を切られてしまいました。
数日後、彼女が精神科に入院したと知らされました。私は自分の対応が間違っていたのではないか、もっとつぶさに彼女を見ていれば、どこかで変化に気づけていたのではないかと、何度も反省しました。
ですが専門家ではない私には、未だに正解がわかりません。
生命保険には精神科の通院歴があると5年は入れないという条件がありますが、確かに本人は明るくなったとしても、本質的に治ったとは言えないのだと思います。
このことは周りはもちろん、当の本人が一番自覚していないといけないことかもしれません。
うつ病に関わる全ての人が、長い目で付き合っていかないと、本当の回復まではなかなかたどり着かないのだと気づかされました。