私が21歳の頃の話です。当時47歳だった母親が、ある日の朝、買い物に行ってくると出かけたきり、夕方になってもなかなか帰りませんでした。
今までこんなことはなかったため、心配になった私たち家族は、心当たりのある、母親の家族や友人に電話をかけまくりました。
行方不明になったと警察に電話をかけようした時、母親が帰ってきて、長年住み慣れた家なのに急に「道に迷った」と言うのです。
父親が「そんなわけあるか。嘘つくな。本当はどこに行ってたんだ」と母親を咎め始めたのが、母親がうつになる始まりでした。
それからというもの、何年も前に潰れた駅前デパートに、行ってくると言ったり、父親の前で突然、包丁を持って振り回したり、ベランダから飛び降りようとしたり、ということが何度も続いていました。
母親がこんな状況なため、父親がしばらく仕事を休んで、家事をやっていましたが、ある日、こたつで寝ていた母親が呼吸困難に陥っているのを、父親が発見し、急いで救急車を呼びました。
運ばれた先の病院で、母親は、いろいろな検査や診断を受け、その結果医者から「うつ病にかかっています」と、きっぱり言われました。
「この状態では、普通に日常生活を送ることが難しいので、このまま入院してもらって、点滴と精神安定剤を投与しながら、しばらく様子を見ましょう」と言われました。
入院してからの母親は「これまでのことは何だったの?」と思うほど、元気になっていきました。
思い返してみると、母親のパニック症状は全部、父親が家に居る時だけだったので、もしかして、母親がうつ病になったのは、父親の普段からの強い亭主関白ぶりに原因があったんじゃないかと、思いました。
うつ病は精神の病気だから、薬でパニックを落ち着かせても、結局は母親自身でその病気を克服しないといけないので、私が父親にそのことを話しました。
亭主関白の父親もだいぶ反省したようでした。母親は1ヶ月間入院しましたが、父親が母親に今までのことを謝り、母親は、心から喜んでいました。
それから母親は、精神安定剤をもらいに通院していましたが、いつもの母親に戻り、家事全般や買い物なども普通にできるようになり、うつ病を発症することはなくなりました。